インタビュー

すべての人に自宅に帰れる選択肢を WyL株式会社代表 岩本大希さんインタビュー

「すべての人に自宅に帰れる選択肢を」をモットーに訪問看護事業に取り組むWyL株式会社代表取締役・岩本大希さんにインタビューしました。

岩本大希さん WyL株式会社代表取締役・岩本大希さん

大学卒業後、救急救命センターで2年間従事したあと、ケアプロ株式会社で訪問看護事業を立ち上げる。2016年に独立し、WyL株式会社およびウィル訪問看護ステーション江戸川・豊見城を設立する。 ウィル訪問看護ステーション | WyL株式会社:http://www.wyl.co.jp/

救急救命センターから訪問看護へ

【中浜】自己紹介をお願いします。

【岩本】WyL株式会社の岩本大希です。現在28歳で、看護師になったのは2010年なので今年で6年目になります。大学の看護医療学部を卒業したあと、最初のキャリアとして大学病院の三次救急を行う救急救命センターに2年間勤めていました。一般的に救急医療は一次から三次までのレベルがあって、三次救急は一次や二次では対応できない高度な治療を必要とする患者が搬送されてくるところです。

【中浜】看護師の資格を取っていきなり救命救急センターで働くのは相当大変だったんじゃないですか?

【岩本】ドラマよりドラマチックというか、シビアなこともたくさんありました。でも、めちゃめちゃ楽しくてやりがいもありましたね。

【中浜】2年間看護師として働いたあとは何をされていたんですか?

【岩本】救命救急センターで働くなかで訪問看護をやりたいな、やらねばな、という気持ちになったので、ヘルスケアベンチャーであるケアプロ株式会社の訪問看護事業の立ち上げに参画することになりました。救命救急センターを退職する半年ほど前から上司に相談し、訪問看護の勉強をするために通常はシフト制であるところを自分だけ曜日固定の休みにしてもらえるようにお願いました。2年目なのに、いま振り返ってもとんでもない生意気なやつだったなと思います(笑)。でも上司は承諾してくれて、今でも感謝しています。最後の半年間は病院で働きつつ、毎週休みの日に知人の訪問看護ステーションへ通って勉強させてもらっていました。

多くの人がもっとハッピーになれるように。自宅へ帰るという選択肢を

【中浜】なぜ訪問看護をやりたいと思うようになったのでしょうか?

【岩本】2つあります。1つ目の理由は、家に帰れる人を増やすためです。入院している患者さんは、状態が良くなるにつれて「家に帰りたい」という気持ちが大きくなるのは自然です。しかし、家族にとってはまだ体調が不安定で手厚いケアが必要な状態で帰ってきてもらっても面倒を見きれないと不安に思いますよね。そこで当時の青臭い僕は、そんな患者さんをベッドのそばで看ながら「それでも帰れないのかな?」と思ったんです。看護師である自分がついていったら一緒に帰れるんじゃないかな?とムズムズした疑問があったのがきっかけです。 そこから繋がるのは、転院できない、あるいは病棟を移りたいけどタイムリーに移れないという問題です。たとえば転院を希望する療養病床などが満床で、かつ家に帰れるかもしれないのに何かしらの理由で退院するのが1日単位でも遅れたりすると、その空くはずだったところへ転院できない人たちが現れるんですね。転院できないと今いる病院の病棟のベッドから移れない。すると今度は救急救命センターの大部屋や回復室から移れない患者さんが出てくる。そして集中治療室のベッドも空けられなくなると、救急車を受け入れることができなくなる。そんな"ベッドの玉突き事故"が起こってしまいます。当然、病院ではなるべく多くの方を受け入れられるように懸命に努力していますが、物理的に難しい場面も出てきてしまいます。 そこで家に帰る受け皿である訪問看護が十分に機能することで、より前の段階で退院できる人が増えれば、病棟のベッドが空き、救われるべきより多くの急患を受け入れることができ、全員がハッピーになれるのではないかと考えたのが1つ目の理由です。

岩本大希さん

2つ目の理由は現場的な話ですけど、三次救急って救命することを目的にどんな人でも運ばれてくるんですよ。命をつなぐことが重大な使命ですから。でも、たとえば90歳のおばあちゃんが心肺停止で運ばれてくるとします。救急車に乗せられた時点で心臓マッサージが始まります。無事に三次救急の病院に運ばれたあとは大がかりな機械に囲まれた初療室やER(救急救命室)で家族はさまざまな救命措置について同意をとられます。そのとき、家族の方はパニックの中で、“やれることはやってください”と必死の思いで口にするでしょう。患者さんに気管挿管して、人工呼吸器を繋げて、心臓マッサージをやりながら、強心剤を打って、いろんなチューブやモニター機器を何個も繋げて、必要なら身体を抑えることもあります。同意をとったうえで迅速に必要なことを適切に行うわけです。ただ、高齢の方であればもともとの予備力も少ないので助からないこともあります。 そんな最期を目の当たりにすると、本人は明らかに苦しそうだし、心臓マッサージで胸が陥没したり体中に機械がつながっていたりして、もしかすると家族の方もまさかこんなふうになるとは思わなかったかもしれない、と思うんです。かといって治療が始まれば途中で止めることはできません。本人にとっても、これまでの90年の人生の最期は本当にこれでよかったのか、その気持ちを問うことはもうできないわけです。私たち救命をする側も命を助ける・つなぐという使命のもとにやりますが、ご老体にフルコースの救命処置・治療を行うことが果たして本人や家族にとって結果的に良いことなのか……というジレンマを感じることもあります。本人も、家族も、私たちも、誰がハッピーになるのかわからないと思うことがあるんです。そして付け加えるならば、そこに数十万、数百万円の社会保障費が投入されるわけです。助けられなかった場合、スムーズに葬儀業者が来て、家族はご遺体とともに病院を後にされます。繰り返しますが誰がハッピーなのか、これはわからないなぁ、と。もちろん本人の事前の意思や家族の納得した選択であれば、それは問題ではないので救命をするしかありません。一方、突然の場面で、“意思決定”が不十分な状況だったがために後悔してしまうことがあれば、それは問題だと思います。では、どうしたら未然にそのような事態を防げるのでしょうか。僕は、万が一のときや人生の最期のあり方について事前に話ができたり、救急車で運ぶ・運ばないなどの選択肢のメリット・デメリットを教えてくれたりする人がいたらいいなという考えに至りました。でも、普通に生活していたらなかなかそんな話を家族で積極的にすることは多くないし、選択するうえでの情報は入ってきません。だから、そこに看護師が入っていけばいいんじゃないかと。看護師は職業の役割としても患者さんの尊厳や意思を守らなくてはいけない存在なので。そういう意味でもお医者さんでもヘルパーでもケアマネでもなく看護師という存在が適切だと思っています。

ケアプロ株式会社での4年間を経て独立

【中浜】ケアプロさんではそのあとどれくらい働いていたんですか?

【岩本】4年間ですね。訪問看護サービスは僕ともう一人で立ち上げました。若いなりに現場をやったり、営業をやったり。今だったらその年での立ち上げは止めますけどね(笑)。

【中浜】ずっと現場で働いていらっしゃったんですか?

【岩本】3分の2くらいは現場でしたね。最後の方もできるだけ現場をやりたいとわがまま言わせてもらって。夜の訪問とかは大変なので、そこだけやらせてもらってたりとか。でも最後の9ヶ月間くらいは現場なしでした。

【中浜】そこから会社を立ち上げるに至った経緯はなんですか?

【岩本】先ほど話したきっかけからの志は変わっていないんですけど、訪問看護を始めてみてわかったことがあります。それは、日本は高齢化がどんどん進んでいるのに、ほかの国と比べても在宅ケアの中での訪問看護の供給が足りていないということです。訪問看護ステーションが足りないし、そもそも看護師が足りていない。このままでは、日本のお年寄りは家に帰れなくなり、家で死ねなくなる。そんな現状があるんですよ。 病院で働いている看護師さんの平均年齢が36〜37歳なのに対して、訪問看護師の平均年齢は48歳で10歳くらい開きがあって、いま働いている看護師の中で訪問看護師は4%くらい。めちゃくちゃ少ないですよね。スウェーデンは40%くらいだそうです。また、日本では10人に1人しか自宅で最期を迎えることができないのに対して、スウェーデンでは2人に1人が自宅で亡くなっています。いろんなデータを見ると、地域や在宅でケアをする看護師が多いほど、家もしくは家に準じた場所で最期まで過ごせるといわれています。 そこで、若い看護師にもっとこの業界に入ってきてもらえるようにしなければいけません。もっとも、いま自分のこの手で訪問看護師としてケアをするだけでも、自宅に帰れる人が一人、二人と増えていくということも積み重ねていかないといけません。モデルも作るし、自分自身もやるしってことを常々一生懸命やってきていたんですけど、それを改めて自分なりに昇華させたいと思い、独立し、新たにWyL株式会社を今年の4月に立ち上げました。

【中浜】「自分が」というよりも業界自体をより加速させるためにこの手段を選んだんですね。ちなみに会社の名前にはどのような意味を込められたんですか?

【岩本】“看護”という仕事は病気を治すのではなくて、“健康”に着目して、病や障害もその人の一部だと考えて、健康にかかわる問題を解決することが本質だと思っています。在宅看護においては、家に帰って、家でさまざまな折り合いをつけて過ごしていくということを一緒にやっていくつもりなので、人生をともにするような意味、そしてその人の人生の価値観に沿っていくという意味の、“With your Life, Whatever you Like”の頭文字をとってWyLという名前になっています。

岩本大希さん

【中浜】独立する際の場所選びではどんなことを考えましたか?

【岩本】一番の理由はご縁です。ここのビルは面白くて、3階〜4階に訪問歯科に力を入れている歯医者さんが入っているんですよ。初めてその院長に会ったときにこのビルで在宅サービスを包括的にできるといいなと話されていました。1階には訪問薬局と訪問診療が入っていて、同じくケアマネ事業所も存在しているので、在宅メディカルビルみたいになっているんですよね。それぞれ違う法人の在宅系サービスが同じビルに揃っていて、別法人だからこそ無駄に囲い込まずに各々自立しつつもいい感じに連携できるというのは地域包括ケアの効率的な形なのではないかと思います。

2度の訪問看護サービスの立ち上げを経験して

【中浜】ゼロから2度、訪問看護サービスを始めたということで、これから訪問看護ステーションを立ち上げたいという方もいると思うし、いま病院勤務でこれからの選択肢として訪問看護を考えている方もいると思います。訪問看護を始めるにあたって、まずやらなきゃいけないことってなんだと思いますか?

【岩本】病院での看護師の仕事から考えると全く経験がなくて新鮮なのは営業ですね。あとレセプトなどの請求業務とかも。だいたい訪問看護って1時間くらい患者さんの家でケアをして10割で1万円くらいかかるんですね。その1万円の価値を僕らは提供できているのかを考えることは大事な視点だと思います。

【中浜】僕ももともと施設で働いていて、お金が見えないなと思ってデイサービスに移ったんです。でも、デイサービスの費用が1日いて約1万円って考えたらディズニーランドより高いわけじゃないですか(笑)。利用者の方は生活の質を上げるために1日来て1万円払っているのに、ディズニーランドに行った方が楽しかったら意味がないですよね。決められた時間にそれだけの価値を提供できているかって働く側として考えなきゃいけないと思います。そもそも契約できなかったら給料がないですしね。

【岩本】そうですね。そういう状況に晒されるっていうのは初めての感覚というか怖いというか。この仕事だからこそ始めるにあたって詳しく勉強したり、自分たちの提供するケアの価値についてちゃんと説明できるようになったりすることが必要になると思います。

【中浜】病院から出てすごく価値を感じていることや、訪問看護のやり甲斐っていうとどういうところがありますか?

【岩本】厳格な管理のもとで、狭いけど深く早く看護的な関わりをする病院と比べて、訪問看護は対象の幅や活用するリソースの幅が広いです。本人だけでなく家族(世帯)も対象だし、あるいは隣近所や商店街の人々まで含めて僕たちの関わりや巻き込む対象かもしれなくて。また、利用者の方が持つ疾患や健康問題もすごく多様で複雑です。身体疾患だけが健康問題ではなくて金銭的な問題や社会的な問題もあります。そんな簡単に分類できない入り組んだ問題に対処するという視点で見ても、そこにはあらゆる職種があって、行政サービスというフォーマルな資源もあれば、地域ボランティアなどのインフォーマルな資源もある。ケアの対象と同じように、活躍する人や使えるものも実に多岐にわたります。そんなある意味でクリエイティブ、ある意味ですごく難しい状況下で看護師としてどう価値を発揮するか。そこにやりがいやハマる要素があると思います。

【中浜】まわりをいろいろ見る分、看護師としてなにができるかをより考えている感じがありますね。どんな方が訪問看護に向いていると思いますか?

【岩本】看護師はみんな人生に一度くらいはやった方がいいのでは?と思います。看護師はどこでも仕事があって転職も多いお仕事なので、ひとつのところに執着せずとも長い看護師キャリアの中で一回くらい訪問看護をやれるといいなと思います。そこでハマる人もいればハマらないけど次に生かそうっていう人もいるので、どんな方にでもお勧めをしています。

人の地産地消を支援する

【中浜】今後はどうしていくつもりですか?

【岩本】まずはここで一生懸命がんばります。そして、「地元に帰って訪問看護をやりたい」とか「自分の地域で家に帰る人が増えるといいな」と思って行動を起こしたい人を支援できるようになれると一番いいなと僕は思っています。たとえば、僕が知らない地域でいきなり訪問看護を始めても方言がわからなかったり、地元の人からみたら怪しいヨソモノだと思われたりするでしょう。そこで、もとから地元にいる人や、一度外に出たけど地元に戻ってきた人などの出番です。「人の地産地消」という意味でも地元でやりたいという人に関わるチャンスがあれば支援していきたいです。

【中浜】最後にひとことお願いします。

【岩本】看護師のみなさん、訪問看護サイコーだからやりましょう!

編集者の一言

病院勤めでの「家に帰りたい」というご本人の想いとベッドの空き問題という課題や気づき。さらに、看護師として、病気ではなく健康へのアプローチを継続していくことがご本人の幸福の維持につながるという想いに大いに共感させていただきました。ご本人の想いを聞き取る、一緒に考えるなどプロセスを大切にしているという点も、これまでの私の中での看護師のイメージとは全く違ったものでした。看護師の専門性や能力のすばらしさを教えていただいたような気がしました。訪問看護師に興味が出てきた方はぜひ一度ご本人にお会いしてみてはいかがでしょうか!

中浜 崇之

この記事の寄稿者

中浜 崇之

二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/

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